Faux Depart / Maher Sharal Hash Baz, YikYak

　工藤冬里を中心とした実験音楽バンド、マヘル・シャラル・ハシュ・バズのアルバム。サンフランシスコのインディーズ・レーベル"Yik Yak"から2004年にリリースされたもの。5秒という短い曲"A Wind"から、「身辺整理身辺整理・・・」という奇妙な歌詞から始まる最長の曲"A Will"まで、いろいろと取り揃えた全22曲。

　マヘルを具体的な「何か」として説明するのは、簡単なようで難しい。直感的に「癒し系ヘタウマバンド」という言葉が思い浮かぶが、必ずしも「ヘタウマ」とはいいきれない、ヘタさがある。ヘロヘロ・へなへなのブラス・セクション、淡々と叩き続けるシンバル、グダグダ・くたくたのヴォーカルなどなど、あらゆる部分に「キレ」がない。アレンジは野暮ったく、洗練というには程遠い。録音レベルは一定せず、音割れ・ひずみは日常茶飯事、ハイファイですらない。今日日小学生のクラブ活動のほうがマトモである

　と思うのだが―――。

　それもこれも「実験音楽」「アヴァンギャルド」「パンク」への布石なのだとしたら、グウの音も出ない。

　1970年代に活動を開始し、1991年にインディーズからデビューして以来様々なアーティストとコラボレーションを重ね、海外のレーベル・メディア・アーティストから熱い視線を浴び―――と、只者らしからぬ評判を勝ち得ている彼（とマヘル）に興味を持ったからには、それが単なる「実験音楽」や「パンク」で終わるはずがない・・・と思いたい。亭主の目利きを含め、今はただまったりと、彼（とマヘル）の行く末を見守っているところだ。(2010.06.05 Tower Records水戸内原店から)

To the Sea / Jack Johnson, Brushfire Records|Universal(UICU-9071)

　ハワイはノース・ショア出身。ギタリスト兼ヴォーカリスト・ジャック・ジョンソンの最新作。ゆるやかなグルーヴと、素朴なギターの調べが心地よいサーフサウンドのアルバム。国内盤は2010年5月、海外盤は2010年6月リリース。特に海外盤は6月12日付け全英アルバム・チャートで初登場１位を記録している。日本においてもズームインSuperで紹介されたほか、レコード店で強力にプッシュされているので購入した人も多いのではなかろうか。

　いわゆる「売れ筋」アルバムは買わない主義の亭主、ハワイ関連ということで迷うことなく購入した。彼の出身であるノース・ショアは波が高いことで（特にサーファーには）有名なのだけれど、本作もまたノース・ショアらしく「波高め」に仕上がっているのが面白い。ハワイアンやヒーリング・ミュージックなど「癒し」のサウンドとは一味も二味も異なり、涼やかでストイック、ときどきファンキーな面が見え隠れする。深い深い青空と吹き渡る風、打ち寄せる波―――サウンドの端々にノース・ショアの自然が垣間見える。Jack Johnsonしかり、Makanaしかり、ハワイ出身のアーティストの作品には、「ワビサビ」にも似た独特のスピリッツが感じられる。

　店頭などでへヴィー・ローテーションされている独特なギター・リフの曲はM1 "You and Your Heart"。個人的にはM7 "My Little Girl", M8 "Turn Your Love"あたりが心地良い。(2010.06.05 Tower Records水戸内原店から)

2010/ Studio Apartment, Apt.|New World(XNNW-11007)

　森田昌典(DJ・プログラマー）と阿部登（キーボーディスト）による音楽ユニット"Studio Apartment"の５作目となるフル・アルバム。ハウス/ラウンジ/ラテン/ボサノヴァなどのグッド・ミュージックをベースに美麗かつダンサブルなフューチャー・サウンドを聴かせる。2000年にデビュー。2008年にはNYのハウス・レーベル"King Street"より世界デビュー盤"The Rising Sun"をリリースし、海外進出を果たしている。

　毎回圧倒的なクオリティの作品をリリースするStudio Apartmentだけに、今回の作品もまた期待通り、素晴らしいクオリティの楽曲が揃っている。男性ヴォーカリストRaj RamayyaをフィーチャーしたM1 "Strawberry Rainbow"はスコールの後のような爽快さと眩しさを感じさせるハウス・チューン。Raeをヴォーカルに迎えたM3 "Your Words"はストイックな歌詞とシンプルなトラックとが交錯する良質のハウス・トラック。Steve HoangをフィーチャーしたM8 "Stay"はガラージ風ヴォーカルが小気味いい。M12"Serenity"はセクシーなトラックとは対照的なMarc Evansの淡々としたヴォーカルが印象的・・・などなど。やはりオススメはM1だろうか。

　なお、本作には（Studio Apartmentには珍しいことに）テクノやミニマル、あるいはエレクトロニカ的なトラックも含まれている。もちろんどのトラックも爽快で美麗、文句なしに楽しい。まるでリゾートにでも来ているかのような、夏を先取りした気分を味わうことができるアルバム。オススメ(2010.06.05 Tower Records水戸内原店から)