YMO 1979 Trans Atlantic Tour - Live Anthology / YMO, Alfa|Sony Music(MHCL-3131-6)

　1979年10月から12月に開催されたYMOの海外ツアーの音源、および映像をあつめたBOXセット。海外5カ所のライブの模様を収録したCD5枚と、各地のライブ映像をまとめたBlu-ray１枚が同梱されている。 なお本BOXセットは2025年4月に受注生産品として限定販売されたのち、2025年8月発売の二次生産分の予約が始まった。亭主は4月発売のものを購入。

　"Yellow Magic Orchestra"、"Solid State Survivor"の2枚のアルバムをひっさげ、海を渡ったYMO。 現地での大成功がメディアを通じて日本に伝わった結果、日本でも人気に火が付いたエピソードはあまりにも有名である。 海外ライブの音源を再編集したライブ盤"Public Pressure(公的抑圧)"は日本でも大ヒットしたが、ツアーに同行した渡辺香津美氏のギター・ソロが（レコード会社都合で）使用できず、 急遽坂本さんによるシンセ・ソロに差し替えたり、同じく矢野顕子さんの「在広東少年」の歌詞が放送禁止用語に抵触、部分的に無音になった（ライブでは会場の盛り上がりにかき消された）りと、 話題に事欠かないツアーであった。 強行軍のライブスケジュール、ユキヒロさんの飛行機恐怖症、綱渡りのシンセ操作などからツアー中のメンバーのメンタルはぼろぼろで、 帰国後のYMOフィーバーとあいまって「公的抑圧」などというストレスフルなタイトルになってしまった、とのこと。

　さて、そんなこんなで語るべきことの多かった海外ツアー。CDには8月4日のLA Greek Theatre（チューブスの前座として）に加え、Trans Atrantic Tourの5都市9公演から、10月16日のLondon Venue、 18日のParis Le Parace、24日のLondon Venue、11月6日のNY Bottom Lineの4公演が5枚のCDにまとめられている。 他の公演についてはHurrarのように独立した映像タイトルとしてリリースされていたり、あるいはBlu-rayに部分的に収録されていたりするので、 もしかしたら将来「完全盤」がリリースされる可能性も否めないが、まずは本作が決定盤であると信じたい。 演奏曲は各公演で順番が異なるほか、アレンジやシンセの音色などもかなり変わっているので、ファンならばそれらの違いを楽しみつつ、とっかえひっかえ聴くのがよいだろう。 特筆すべきは"Public Pressure"に収録されていなかった渡辺さんのギターソロがしっかりと収録されていることで、 同じくギターソロを収録した2枚組ライブアルバム"Faker Holic"とはまた異なるバージョンも収録されている。 初期YMOがフュージョンバンドとして認知されていたのは、ひとえに渡辺さんのギター・プレイによるものだ。なお、矢野顕子さんの放送禁止ワードについては本作でもカットされていて、 こちらはどうにもならなかったようである。

　かつて亭主は、ライブ盤やレア音源をどんどん蔵出しする「アルファ商法」に反発していて、ライブ音源やリミックス、ベストアルバムにはいっさい関わらないと心に誓っていたのだが、 物欲とコレクター魂に負けた結果、今は（YMOとメンバー3人のタイトルに限っては）再発フェスティバルに嬉々として参加し、そのたびに金欠に陥っている。 事情を知らない向きには、似たようなアルバムが5枚ダブっているように見えるかもしれないが、亭主にとって5枚のアルバムはどれも個性的、面白い。 シンセ・トラブルで演奏をやり直したものがそのまま収録されていたり、シンセのプリセットをいじってあえて微妙な演奏にアレンジしてみたり、曲と曲をつなぐブリッジの演奏を変えたりと、 ツアー中の様々な試み・工夫にワクワクする。坂本さんや渡辺さんによるアドリブ・ソロにも要注目で、「買ってよかった」と思えるBOXセットに仕上がっている(2025.04.30)

Hannibal / Marvin "Hannival" Peterson and The Sunrise Orchestra, MPS|Polydor(POCJ-2518)

　ジャズ・トランペット奏者Marvin Hannibal Petersonによるポスト・バップのアルバム。1975年、MPS Recordsよりリリースされた。 Malcolm Xに捧げられた"Soul Brother"を含む全５曲。CD盤は1997年、Polydorからリリースされていて、亭主もまたCD盤を購入している。

　フリージャズ、ハードバップの名盤として知られる本アルバム。 奔放なトランペット・ソロから始まりハイスピードかつスリリングな（ドラム・ベース・トランペットの）トリオ演奏へと展開するM1"The Rabbit"、 ピアノやフィドルが加わり豪華さを増したM2"Revelation"、ヨーロピアン・ジャズを彷彿とさせる落ち着いたリズムの中でトランペットがたゆたうM3"Misty"など、 どの曲も非常に印象的で美しい。 M4"The Voyage"はアメリカ系アフリカ人のルーツであるアフリカの民族音楽を思わせるフリー・ジャズ、アフリカの舞踊を思わせるかけ声や動物たちの声などがフィーチャーされているほか、 民族音楽によくあるループ・ミュージック仕立てとなっている。 M5"Soul Brother"は前述したとおり米国黒人解放運動の指導者Malcolm Xに捧げられている。スリリングな展開と滔々と、 時に激しく吹き鳴らされるトランペットにMarvinがどんな思いを込めたか、それは1960年代の空気感が読めない亭主にはわからないが、約13分に込められたパッションに圧倒される。

　本アルバムは「ジャズ喫茶四谷いーぐるの100枚（後藤雅洋、集英社新書）」に収録されているアルバムの１枚で、亭主が本書を購入し、実際に集めてみようと思い立って以降、ずっと探していたアルバムだった。 実際にはAmazonのマーケットプレイスに出品されていたものの30000円強と到底手のでるものではなく、それこそ10年来、地道にあちこち探し歩いてやっと某レコードショップのECサイトで見つけたものだ。 実は亭主、このアルバムをAmazon Music Unlimitedでデジタル盤を聴いていたのだが、やはりCDで聴きたかった（LPはあちこち出回っていたが集めるならばCDと心に決めていた）。 今回手頃な価格で手に入って、ここ10年のもやもやが晴れた思い、もちろんアルバムの内容にも大満足で、中古CD探しの醍醐味を存分に味わえた一枚となった(2025.04.25)

Fell Sur Paris (パリを撃て) / Kenzo Saeki and Club Je taime, Pearlnet Records(PEAR-1001)

　パール兄弟・ジョリッツなどのユニットで活動するサエキけんぞう氏によるフレンチ・ポップのユニット「サエキけんぞうとクラブ・ジュテーム」のミニアルバム。同じくフレンチ・ポップをフィーチャーした「スシ頭の男」「カマンベール&スシ」に続く３枚目のアルバムは、セルジュ・ゲンズブール、ボリス・ヴィアンの名曲をカヴァーした意欲作。ユニットには木恵つよし氏（ギター・シンセ）、NANASEさん（ピアノ）が参加。ヴォーカルバージョン５曲とインストバージョン５曲の全10曲を収録している。2009年リリース。

　2003年から2004年に前述の２枚のアルバムをリリース、パリでのライブの成功、フランスメディアによる紹介で一躍有名となったサエキさん。本作ではセルジュ・ゲンズブールの楽曲より"Les Goemons"、"Couleur Cafe"の2曲、ボリス・ヴィアンの楽曲より" Cinematographe"をカヴァーしたほか、オリジナル"Bar Airplane(バー・エアプレーン)", "Ivrogue(酔っぱらい)" の2曲を収録。なおカヴァー曲3曲は、原曲と同じ内容で聴き取れる「超訳日本語詞」とのことでフランスでも好評を得たという。インストバージョンはヴォーカルバージョンからシンプルにヴォーカルトラックを抜いたもので、コーラスは削除されていない。

　亭主にとってサエキさんといえばとにかく「歌詞がすばらしい」という評価で、ハルメンズ?パール兄弟時代はもちろん、多くのアーティストに提供した歌詞もそのどれもがすばらしい。もちろん本アルバムの「超訳日本語詞」もまたお気に入りとなっている。個性を主張してあえてキッチュな歌詞を書くアーティストは多いが、サエキさんの着眼点のユニークとワードセンスは唯一無二である。パール兄弟/ハルメンズにハマっていた亭主は氏の凄さを桐島かれんさんがヴォーカルをつとめた第二期サディスティック・ミカバンド(1989年)で再認識し、以降ずっとサエキさんの「歌詞」に魅了されている。

　ただ、本作のすばらしさは歌詞だけではない。セルジュ・ゲンズブール、ボリス・ヴィアンというフランスを代表する作曲家の楽曲がすばらしいのはもちろんだが、原曲の雰囲気や品位を損なうことなく、豪奢なポップ・ミュージックへとアレンジした木恵氏、NANASEさんの力量もすばらしい。通常インストバージョン、というと収録時間を稼ぐための埋め草、あるいは「カラオケ・バージョン」などというありがたくもなんともないサービスを想像してしまうのだが、本作のインストにはついつい聴き入ってしまう魅力がある。以前の「スシ頭の男」ではジャングルなど当時流行のリズムを取り入れるなど目新しさを狙っていたものが、本作では真っ向勝負のアレンジに挑戦、しかもその目論見がズバリ的中している。フレンチ・ポップの醍醐味を味わえる「インストバージョン」。ぜひ多くの人に聴いてもらいたいところ(2025.04.24)

Transonic Compact Disc 02 / V.A., Transonic(TRS-25035)

　ExT Recordingsの永田一直氏主宰、日本の電子音楽・テクノレーベルの草分けとして1994-2004年に活動したTransonic Recordsの活動再開を記念してリリースされたアルバム第2弾。 旧Transonic Records、ExT Recordings所属のアーティストのトラックをまとめたテクノ/ハウスのコンピが本作となる。全10曲。

　参加アーティストはTaro Nohara, Ken Inaoka, Tmz, Memorial, Rapunzel Electronics, Cherryboy Function, Kes, Mutron, De De Mouse, Xtal。 前回紹介したDISC 01に参加したアーティストのほか、全体的にTransonic/ExT Recordings所属のアーティストで固められていて、レーベル再開の意気込みがヒシヒシと伝わってくる。 収録トラックは概してハウス寄りでスタイリッシュ。かつてのTransonicサウンドと比べるとかなりあか抜けていて、しっかりと最新型を追求している。 一方でMutronのM08 "Rage Against the Dominator [Tribute to TR Mix] "にはMobyの"Go"がサンプリングされていて、 知っている人にはちょっとうれしい（というかあざとい）展開もある。最 近のファンは"Go"なんか、知ってるのかなぁ、などと思ったりもするが、そもそもTransonicのファンならばこの辺は基本というか、必修科目なのだろう。 最近すっかり大御所になってしまったデデさんはM09 "Transonic 808 [Extended Mix]"を提供。 ビヨビヨとした808サウンドにブレイクビーツ、それにチルアウトなシンセ・ピアノを組み合わせた、ちょっと懐かしい、しかししっかり今風なテクノを指向している。 往年のテクノファンへのサービスとして、トラックを拾い聴きしても、また通して聴いても楽しめる内容なのが良い。

　ちなみに、個人的なお気に入りはジャケットのデザイン。DISC 01ではなんとなく「現代建築」っぽかった建物が、DISC 02 ではなんと白煙を吹きながら離床していく。 まさか03があるのだろうか、コンピとして第３弾がありそうなのはなんとなく想像できるが、ジャケットの展開はいまいち読めない(2025.04.15)

Friendship without Words(言葉のない友情) / Reimy, Funhouse(32FD-7055)

　沖縄県出身で1984年1月にデビュー。松任谷正隆・由実夫妻のバックアップにより3枚のアルバムをリリースしたのち、ソロとして1992年までに8枚（計11枚）のフルアルバム、 他コンピレーションやベストなど多数の作品をリリースしたシンガー/シンガーソングライター、麗美さんの7枚目のフルアルバム。1989年3月リリース。全9曲。 亭主はもともと本アルバムを持っていたのだが、今回はブックレット付の特別盤をBook-Offで発見、購入した。

　デビュー当初は松任谷夫妻が楽曲を提供、アイドル全盛期に本格的なポップ・シンガーとして活躍した麗美さん。 4枚目のアルバム"My Sanctuary"からはSixty Recordsに、さらにFunhouseに移籍し、米国のポップ・ミュージックやラテン音楽を積極的に取り入れた、クロスオーバーな作品を発表している。 彼女自身による等身大の歌詞、日常のひとコマを切り取ったかのような、また女性ならではの優しい視点の歌詞は親しみやすく、心癒される。 1980〜1990年代の音楽シーンといえば、アイドルあり、ニューウェーヴあり、バンドブームあり、バブルの活況に下支えされたまさに「狂乱」の時代だったのだが、 彼女の音楽はそんなお祭り騒ぎとは全く無縁の場所にあった。

　そもそも、亭主は彼女の音楽をデビューアルバム"Reimy"から（しかもカセットで）聴き続けている。 彼女を知ったきっかけは彼女のコンサートツアーを告知する深夜ラジオのCMで、その伸びやかな高音（ファルセットですらない）、圧倒的な声量、そして美しい歌声に、 イヤフォン越しにも関わらずすっかり魅了されてしまったのだ。 ただ、当時の亭主の心境として、女性シンガーのファンであることを友人や家族に表明するのが気恥ずかしく、アルバムを買ってもしばらくは自分で楽しむだけ、安いイヤフォンで深夜にひっそりと聴いていた。 聴き手に媚びない、等身大の歌詞を聴いていると、秘密のガールフレンドができたような、そして彼女と他愛ないおしゃべりに興じているような気持ちにさせてくれた。

　本アルバムを買ったきっかけは、先にも書いたように亭主が持っているアルバムとは別のパッケージ、ブックレットが封入された（おそらく）初回限定盤だったから。 本当に久しぶり、36年ぶりに聴いた彼女の曲に、古い友人と再会したようななつかしさと気恥ずかしさに戸惑ったものの、やはり深夜にひっそりと、今はそれなりのオーディオシステムで聴いていると、 かつての心持ちがよみがえってくる。 CDに記録された音楽が年月を経ても変わらないのと同様、亭主の心もまた変わっていなかったことに気付いて、妙な自信が湧いてきたりするから不思議だ(2025.04.09)